2019サマーキャンプ手記

7月30日(火)
早朝からバスや電車を乗り継ぎ、盛岡駅に東北各地域から子供たちが集まってきました。
青森・宮城・岩手の各教室の子供たちです。
今年の参加者は小学一年生から中学二年生までの35名、引率は合氣道指導者が4名です。
日程が2泊3日のショートコースに12名、4泊5日のロングコースに23名が参加します。4泊5日のロングコースを設定したのは今年で三年目になります。
盛岡駅に集まった一行は、秋田新幹線を利用して角館まで移動し、市内にある角館武道館で稽古を行いました。
稽古は各色帯ごとに分かれます。普段の教室では一時間の稽古ですが、この日は二時間半の稽古を行いました。 子供たちは早朝からの移動にかかわらず、普段は顔を合わすことのない教室の相手と新鮮な氣持ちで稽古に励んでいました。稽古では途中で休む子、飽きてしまい走り回る子と様々にいますが、全体が稽古へと向き合う姿勢を崩していないので、そういった子供たちも再び稽古へと戻って行きます。明日は子供たち全体で演武会を行う予定です。
一日目の稽古を終え、角館市内のホテルに向かいます。ホテルに着くと大きな温泉とおいしい食事が待っています。毎年、快適なホテルでの一泊を楽しみにしている子供たちも多いようです。

7月31日(水)
二日目は前日に予定をしていた演武会を行います。
整列から始まり入場、相手と向かい合っての礼、技を行い、礼をして退場します。他の子供たちが演武を行っている間、演武が終わった子供は静かに待機しています。経験の長い子が多かったせいか、全体に大きな乱れもなく、全員がしっかりとした演武を伸び伸びと行っていました。
演武会を終えた子供たちは周辺の武家屋敷を散策します。お土産を買う楽しみな時間で、情緒が残る街並みを子供たちは元氣に歩き回っていました。
引率者二名は田沢湖のキャンプ場へと向かい、到着するとすぐに夕食の準備を始めます。特にキャンプ場に設営されている石窯を利用するためには、早くに火を起こし窯の中の温度を上げておく必要があり、二時間はかかります。炊事場の設営や食事の準備をしている間に、子供たちがホテルのバスでキャンプ場に到着しました。いよいよキャンプが始まります。
まず子供たちを待っているのは、キャンプ場の用水路を利用した岩魚の手づかみです。子供たちは水着で水の中に入り、素手で魚をつかみ取りします。子供たちの底抜けのはしゃぎようは、初日からの行程で初めて見せるものです。水の中で動き回る魚を探して捕まえる。水に濡れ、泥に汚れることなど厭いません。一匹捕まえただけでは満足しないようで、再び川の中へと戻って行きます。捕まえた魚は自分たちで腹を裂いて内臓を取り炭火で塩焼きにしました。
焼けた魚をほおばりながら夕食が出来上がるのを子供たちは待ちます。
ある子はキャンプ場を散策し、ある子は食事の手伝いをします。食事が出来上がると高学年の子が、小さな子たちを優先して食事を配る様子が目に入ります。この晩のメニューは、石窯を使って鳥の丸焼きと豚のブロック肉を焼き、たき火では鉄板を熱し焼きそばも作りました。少し遅めになった夕食をお腹をすかせた子供たちは夢中になって口に運んでいました。

8月1日(木)
三日目は、早朝4時半に集合。田沢湖でカヌーに乗ります。
参加者は6年生以上の高学年の10名。昨夜が遅かったにもかかわらず子供たちはきちんと起きて来ました。
朝もやに包まれた早朝の湖には、私たち以外誰もいません。夜通しため込んでいたような濃い空氣がそこには満ちていました。子供たちはそれぞれのカヌーを水の中へ運び出し乗り込みます。何度目かの参加になる子はオールの扱いも慣れたものです。田沢湖は日本一の深さを誇り、水の透明度は世界有数、浅瀬では底まで見通すことが出来ます。
カヌーを漕いで沖へ進むと透き通っていた水面は、底が見えない濃い青色と変わっていきます。水面に浮かぶ物は見渡す限り私たちのカヌーだけで、一片の木の葉さえありません。周りの風景を映す鏡のような湖面に、オールが作る波紋が広がっていきます。沖でしばらく休憩を取りましたが、不思議とみんな話そうとはしません。ただ湖面に漂いながら、静かな時間を感じ入っている、そんな時間を過ごせました。
朝食を終えると、今度は5年生を中心としたグループが沢登りへと出かけます。
集合した子供たちはウェットスーツに着替え、車へ乗り込みキャンプ場から少し離れた山奥へと向かいます。
参加者8名の内、ほとんどの子が初めての体験です。車の中では意氣揚々としていましたが、キャンプ場とは違う山の奥に来て少しの緊張が見て取れます。
車を降りた子供たちは自分たちの背丈ほどの草をかきわけて、川べりへと降りて行きます。
着いた先には澄んだ清流が流れていました。ヘルメットや救命具など安全を配慮した可能な限りの装備を身に付けます。ガイドさんを先頭に、その川の上流へと出発しました。
子供たちは川の流れに足を取られたり、ときには胸まで水につかりながら進んでいきます。大人の手助けは最小限の危険の回避だけで、子供たちを見守ることに務めました。
小さな体には少し大変な行程でしたが、果敢に進んでいきます。そんな子供たちからは愚痴も弱音も聞こえてきません。途中の休憩でガイドさんから温かいアップルティーをいただきました。川の水は冷たく、冷えていた身体を温めてくれます。ほっと一息つく表情が印象的で、普段口にしている飲み物がとても美味しく感じられます。 休憩がすむと更に奥へと進みます。歩き始めた場所からは景色も変わり、苔むした木々とかすみがかった靄が現れます。
川を登る途中では、横たわる倒木からダイブをしたり、岩間を流れる急流からすべり降りたりと、おもいきり水につかり遊びます。はしゃぐ子供たちを見守っていましたが、ふざけて危険を招く行為はありませんでした。ガイドさんの指示の中で、水の深さや流れの強さを体験する内に、危険に対する感覚が磨かれたのだと思えます。
長い行程を進みようやくゴールを迎えたみんなの顔は充足感に満ちていました。沢登りという小さな冒険でしたが、仲間とともに困難さを乗り越えた自信を十分に得たようでした。
キャンプ場に戻ると昼食の準備が始まっていました。石窯でピザを焼きます。生地も自分たちで小麦粉を練って作ります。発酵させて膨らんだ生地を耐熱皿にのばし、具をのせて石窯に入れます。子供たちには好評で自分で作った分をぺロリとたいらげていました。
ショートコースの子供たちは、ここで日程が終わります。12名の子供たちが車で盛岡駅まで送られ、それぞれの帰途に着きます。
子供たちから別れのときの表情がのぞけます。また来年も、との想いでその背中を見送りました。キャンプは続きます。
三日目の夜は石窯を使ってパンを焼きました。陽が落ちると焚き火に火をつけるのは、男の子たちです。
辺りから適当な木々を拾い集め、ノコギリで切って薪として火にくべます。火には不思議な魅力があります。自然と焚き火の側に集まる彼らは炎を前に何を感じ、何を話していたのでしょうか。炎を囲みながらその心の内を交わす時間があったのかも知れません。

8月2日(金)
四日目は何も予定がありません。一日中自由です。
何も予定が無い自由な時間、一見すると子供たちは暇を持て余しているようにも見えます。ですが時間が過ぎていく内に、その過ごし方に個性が表れ出します。
男の子はキャンプ場を歩き回り、虫を捕まえたり、火の側のベンチで横になっていたりします。
女の子たちも火の側で会話をしていたり、田沢湖に散策に行ったりします。ゲーム機などの持ち込みは禁止です。合宿前半を思い返してみると武道館やホテルで過ごしていた時は、子供たち同士で多少のもめごともありました。ですがキャンプ場で長く過ごしてからは、そういったことも起こらなくなって来ます。子供たちの顔にも変化が見え、表情が和らいだり、瞳の輝きも増して見えます。
自由な一日が終わる頃、眼前に広がる田沢湖に大きな夕日が沈み出します。
その日の夕日はとてもきれいで、それを見つけた子供たちが田沢湖に駆けて見に行っていました。
夕食はハンバーグの包み焼きです。それまでなかなか炊事場に立たなかった男の子たちも最後の夜には手伝ってくれました。
手伝ってくれた男の子たちが大きなボウルで材料をこねます。こねたハンバーグを焼いてからホイルで包み、石窯の中で加熱します。
久しぶりにお米も炊きました。自然塩を用意していたのですが、この塩がとても素材の味を引き出します。ご飯に少しの野菜をのせ、塩をふりかけておいしそうに食べる子もいました。素朴な素材の味を喜んでくれる姿がとても好ましく思えます。
最後の夜も疲れを知らない子供たちは、田沢湖に星空を眺めに行きました。その夜の星空はとても鮮やかで、流れ星が降る贈り物もあったようです。

8月3日(土)
5日目。キャンプ最後の日です。
前の晩が遅かったので、子供たちの集合は遅めのスケジュールです。
早めに起きてきた子たちに手伝ってもらい朝食を作ります。この日の朝はヨーグルトにフルーツと軽めの食事です。
ヨーグルトは牛乳から一晩かけて作りました。そのヨーグルトを混ぜて、石窯で焼いて作ったチーズケーキが大好評で、子供たちに出すとあっという間に無くなりました。子供たちの食欲は最後の日でも衰えません。
この日は昼過ぎには出発する予定で、そのため少し慌ただしくなります。昼食には再度石窯を使ってピザを焼きました。生地を伸ばしピザを作る子供たちの手つきも慣れた物です。
出発の時間が迫って来ますが、子供たちは最後まで食事の時間を楽しみます。手をかけ自分たちで作った物をみんなでおいしく食べる。最高の時間です。
食事を終えたキャンプの最後に全員で記念撮影を行いました。集まった一同の雰囲氣は和やかで、長いキャンプを過ごしたとは思えないほど、あっけらかんとした表情をしています。
「元氣を増して帰って欲しい」、みんなの顔を見ているとその願いは叶えられたように思えます。
田沢湖駅まで子供たちを送り届けると、大きな荷物を抱えた子供たちは新幹線で帰路に着きます。
家に着いた子供たちには、それぞれの生活がまた待っています。四泊五日という短い時間を一緒に過ごしただけですが、離れた後でもその想いは向けられたままです。
全ての子供たちが、この先へと続く豊かな人生を歩めるように、自身の願いを叶え、困難に負けない元氣をどこまでも得るために、私たち大人は協力を惜しみません。

心身統一合氣道 祐心館指導員 及川慎治

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